海外の取り組みから学ぶ~イギリスのチルドレンズコミッショナーについて
目黒若葉寮のコラムではここで暮らす子どもたちの日々の様子をお伝えしています。
それに加えて、今後は社会的養護をはじめとした、子どもたちの一般的な状況なども発信していきたいと考えています。
今回はイギリスの子ども支援の一部をご紹介します。
イギリスには子どもたちの代弁者を担う公的機関が存在しています。
それが「子供コミッショナー(Children's Commissioner)」です。
この機関は政府と議会から独立した形で存在し、子どもに関する政策や決定について、子どもの権利、視点、利益を促進するため、子どもを代表して行動する[1]役割を担っています。
つまり、子どもたちの利益となるように子どもの目となり、耳となり、口となり、国の制度政策について意見をしていく機関になります。
この子供コミッショナーでは、国内にいる子どもたちの現状(特に困窮状態)を数値として発表しています[2]。
(詳細は下表。目黒若葉寮職員が行った拙訳です。ご興味のある方は下記URLをご覧ください。)
例えば、不登校やホームレス世帯の子、ひとり親の子というものから、ヤングケアラー(親や兄弟の養育者代わりになっている子)の立場にある子といったように、苦しい環境にある子どもの実態が分かります。また地域別にそのような子どもたちが、どれくらいいるかまでも公表されています。
この調査結果は議会や政府に報告され、改善を求める根拠となります。
また社会への訴求にもなっていきます。
このように子供コミッショナーは、子どもの声を聴きながら、同時に行政の機関として全体像をとらえる調査も行っています。
子供コミッショナーの制度から、子どもたちの一人ひとりの声を聴くこと、今まで見えていない・見ないようにしていた実態を明らかにし、社会に事実を伝えていく「発信の必要性」を考えさせられました。
※本稿は目黒若葉寮職員の個人的見解が含まれています。取扱いにはご注意ください。
子どもや若者たちの困窮状況
(項目は抜粋。スマートフォンからご覧の方は画面横向きを推奨します)
項目 その数 報告年 ホームレスまたは安全でない/不安定な居住 123,520 2018年1~3月 貧困 学校給食が無料 1,107,282 2017年度 深刻な低所得や物資的に貧しい家庭 593,000 2017年度 家族が失業中 1,113,028 2017年度 夫婦関係がよくない家庭 1,263,690 2017年 ひとり親家庭 2,658,111 2018年10~12月 親が収監されている(イングランド&ウェールズ) 113,000 2018年(6/30時点) アルコールや薬物依存のある大人が家族にいる 472,000 2014年 DVが報告されている家庭 831,000 2014年 養育者すべてが抑うつ・不安などの訴えている 900,000 2016年 貧困地域(最貧困10%地域)に住んでいる 1,497,315 2015年 ソーシャルワーカーの介入に至っていない世帯 178,255 2017年度 LGBTQ+(16-24歳) 298,000 2017年 行方不明の子ども 55,807 2015年度 不登校 49,187 2016年度 ニートの若者(16-17歳) 53,300 2017年 少年法適用された子ども(10-17歳) 26,681 2017年度 ギャングに入っている 29,000 2017年度 いじめを受けたことがある子ども 805,738 2018年 17歳以下の親(イングランド&ウェールズ) 6,105 2017年 ヤングケアラー(無報酬でケアをする5-17歳) 102,000 2017年度 性的虐待/性的搾取の被害を受けた 207,207 2011年 人身売買の被害を受けた(性的被害はない) 2,345 2017年度 ネグレクトを受けた 951,643 2011年 身体的虐待を受けた 388,462 2011年 心理的虐待を受けた 565,348 2011年 女性器切除の被害を受けた 930 2017年度 犯罪被害を受けた(虐待以外) 377,978 2017年度
(参考)2011年国勢調査でイングランド地方における17歳以下の人口は約8,300,000人[3]
[1] 内閣府 平成27年度『諸外国における子供の貧困対策に関する調査研究』報告書 を引用
https://www8.cao.go.jp/kodomonohinkon/chousa/h27_gaikoku/1_04_2.html
[2] https://www.childrenscommissioner.gov.uk/wp-content/uploads/2019/07/cco-vulnerability-2019-summary-table.pdf を増沢・田中(2019)を参考に目黒若葉寮で翻訳
[3] イギリス国家統計局で公表されているデータ
"Usual resident population by single year of age, unrounded estimates, local authorities in the United Kingdom"より
https://www.ons.gov.uk/peoplepopulationandcommunity/populationandmigration/populationestimates/datasets/2011censuspopulationestimatesbysingleyearofageandsexforlocalauthoritiesintheunitedkingdom